女性の活躍推進企業データベース

厚生労働省
機関投資家等インタビュー

「投資家が注目する企業の女性活躍情報について」

一般社団法人 日本投資顧問業協会 ESG室長 徳田展子氏

2022年7月の女性活躍推進法の省令改正により、企業1には「男女の賃金の差異」の公表が義務付けられました。また、女性活躍推進法に基づく情報公表に加え、2023年3月期以降の有価証券報告書において、人的資本に関する非財務情報の開示が義務化され、その中でも「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女の賃金の差異」が開示指標に選ばれ、情報開示への企業の取組が一層進むものと考えられます。こうした状況を踏まえ、企業の女性活躍情報について、投資家の目線から重要な観点は何か、一般社団法人 日本投資顧問業協会 ESG室長 徳田展子氏に伺いました。

1 常時雇用者数301人以上の事業主

徳田 展子

一般社団法人 日本投資顧問業協会 ESG室長

2018年8月より現職。ESG投資を中心に責任投資全般に従事。
2018年7月まで東京海上アセットマネジメントにてSRIファンドおよびESG投資を含む責任投資全般を担当。
環境省「幅広い投資家による低炭素投資促進検討会」、「グリーン投資促進のための情報開示および評価の在り方に関する検討会」、「持続可能性を巡る課題を考慮した投資に関する検討会(ESG検討会)」、「ポジティブインパクトファイナンスTF」、国交省「ESG-TCFD実務者WG」、内閣府「ジェンダー投資に関する調査研究企画委員会」、連合総研「“良い会社“であることの情報開示と労働者の立場からの責任投資原則促進に関する調査研究」、信託協会「企業のESGへの取り組み促進に関する研究会」等の委員を務める。日経アニュアルリポートアウォード二次審査委員(2012年度~2017年度)。2019年より早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター講師。

-ここ数年で女性活躍情報の開示について、企業を取り巻く状況はどのように変わってきたとお考えでしょうか
徳田氏:
徳田氏:

企業の女性活躍情報に関する開示制度の整備は以前よりも進んでいますが、開示内容は企業ごとにバラつきがある印象です。法定要件を満たす最低限の開示をしているところもあれば、企業独自の工夫をして情報を充実させているところもあります。ここ最近は二極化が進んでいると思います。

独自の工夫により開示を行う企業は、経営戦略と指標とを関連付けていることが多く見られ、企業の抱える課題への取組や進捗状況についても開示しているところもあります。投資家が投資判断をする際の不安解消の材料とすることができる情報を提供するという意味では、開示情報がより多くなる方が良いと思います。

-開示情報のより一層の充実化が一つの望ましい方向であるとのことですが、他方で、情報が多すぎると何を活用すれば良いか、判断に迷うこともあると思います。投資家が特に注目する女性活躍情報にはどのようなものがあるか、教えていただけますでしょうか
徳田氏:
徳田氏:

投資家と一口に言っても、様々な投資スタイルがあり、それぞれ注目する点は異なると思いますが、共通しているのは「女性の取締役比率」ではないでしょうか。昨今、多くの投資家の議決権行使ガイドラインに含まれてきていることにも現れていると思います。「女性の取締役比率」の上昇は、長期的に見れば企業が成長するための重要な要素であると思っており、従来から重要視しています。

取締役会は経営の基本方針を決定するため、そこにジェンダーの多様性を取り入れることで企業がイノベーションを生み出すきっかけにもなり得ます。同時に、リスク管理に関しても多様な観点からの気づきを得られるものと考えます。女性の取締役がいることで、女性活躍推進に関する取組全般が強化され、それにより女性がより生き生きと働く環境が整うことが期待されます。女性が意見を述べやすくなり、自社のために働きたいというマインドを持つことで、これまで以上に女性の様々なアイデアが製品やサービスなどにも活かされ、企業価値向上にも結び付くことが期待できるのではないでしょうか。例えば、自動車は利用者の半分は女性ですし、自家用車購入の際の意思決定には女性が関与しているといわれています。利用者・購入者という立場での女性の関与を、製品の利用や販売サービスに反映することで、製品購入やサービス利用の増加につながるものと思います。

ここではあくまでも取締役会の多様性がポイントになりますので、内部登用か外部登用かの違いはないと考えています。しかし、取締役の内部登用が男性に偏っているのは、女性を自社内部で経営幹部として育成できていないことの現れであり、女性を育て活躍させようとしている企業なのか疑問を持たざるを得ません。

-女性取締役の起用は社外取締役が大半を占め、内部登用はあまり進んでいないのが現状です。2管理職から取締役登用を進めるための取組として何が重要か、教えていただけますでしょうか
徳田氏:
徳田氏:

まずは、経営トップのコミットメントが必要だと思っています。社内外のステークホルダーに対して取組姿勢をしっかりと示すこと、そして、その内容を社員一人ひとりが納得感をもって受け入れることが大事になります。そのうえで、長期的な視点に基づいた育成プランなどの具体的な仕組み作りをしていくといった、段階を追った取組が必要です。同時に、企業の取組が長期的な視点に基づいて進捗しているかを外部からも確認しやすくなるような情報として、役職ごとの男女別比率のような指標の開示が必要だと思います。また、組織の中で女性が経営層の人材として育たない原因を追究することも必要です。役職ごとの男女別比率を開示する意味はこういうところにあると思います。もちろん、単に女性の取締役比率を高めることで対外的な見栄えを良くするということではなく、その比率を高める意義を社内で共有し理解を得ることが重要です。

業種によっては、伝統的にジェンダー比率が男性に極端に偏っているケースもありますが、例えば建設業であれば、それこそ現場に男女別トイレを設置したり更衣室を設置するなど、少しずつ、できるところから取組を行っていくことが重要ではないかと思います。

2 (日経500種平均株価を構成する3月期企業388社のうち)「取締役会メンバーの女性は社外取締役のみという企業が8割を占める」「社内の女性取締役が在籍する企業は12.4%にとどまった」(日本経済新聞電子版2023年6月20日記事、  https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC099MY0Z00C23A6000000/

-以前インタビューさせていただいた際、開示する情報の内容については、情報から見えてくる企業のアンコンシャス・バイアス3に気づくことが必要であるというお話をおうかがいしました。企業がみずからの潜在的な課題に気づくための女性の活躍推進企業データベースの活用アイデアについてお聞かせいただけますでしょうか
徳田氏:
徳田氏:

企業が開示するデータは、データそのものを見るだけではなく、そのようなデータになった背景・理由を分析し深堀していくことが必要です。経営陣を含めて社内できちんと議論する時間を定期的に確保することにより、アンコンシャス・バイアスの解消につながっていくのではないかと思います。また、並行して、開示情報を利用して、投資家などの外部のステークホルダーとの対話の機会を意識的に作っていくことも重要です。社内外のステークホルダーとの対話を続けることで、アンコンシャス・バイアス解消に向けた気づきが得られるのではないかと考えています。

男女の賃金の差異を例にとると、差異の原因については、大抵の場合、「男女間で職種が異なる」「役職に就いている女性が男性と比べて少ない」「短時間勤務制度を利用している女性が多い」、といったことを挙げるにとどまっています。投資家の目線では、これだけでは不十分で、「なぜ、男女間で職種が異なるのか」「なぜ、女性の役職者が男性と比べて少ないのか」「なぜ、時短を利用するのは男性よりも女性が多いのか」といったことについて、投資家との対話の中で一つずつ原因を明らかにして解消していくことが重要だと考えています。

3 無意識の思い込み、無意識の偏見を意味する言葉で、自分自身が気づいていないものの見方や捉え方のゆがみ・偏りをいう。

-「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」、「男女の賃金の差異」といった指標に関する情報開示を進めることで、企業が女性の活躍推進についてのメッセージを対外的に発信する際の意義について、教えていただけますでしょうか
徳田氏:
徳田氏:

情報開示において重要なことは、企業価値向上とのつながりを示すという点です。直近時点の指標を開示するだけでなく、それらの指標をKPIとして目標を設定し、過去からの推移と企業の取組とを結びつけ、取組が企業価値向上にどのような効果を与えているかを明らかにすることが望ましいと考えています。経営戦略の一環として、企業の取組とその成果との結びつきを示すことで、中長期的な企業価値向上に向けた取組として説明ができるようになり、投資家に対して効果的な情報開示になると思います。

少子高齢化が進む日本国内において、投資家の長期的な不安材料の一つは、深刻な人材不足です。企業が将来にわたって成長し続けるためには、“人手”不足の解消ではなく、達成すべき戦略を担う“人材”不足を解消することが必要です。企業の競争力の源泉として、女性をこれまで以上に中核的な人材として育成していく企業姿勢が示せるのか、女性も生き生きと働くことができなければ生産性の向上は望めないでしょう。企業は、これまで以上に女性の活躍を推進し、女性を自社の競争力や他社との差別化の源泉となるような人材に育てる風土、組織を本気で作っていくことが今後一層重要になると思います。