女性の活躍推進企業データベース

厚生労働省
機関投資家等へのインタビュー

「ESG投資の動向と投資家から期待される企業の情報開示について」

一般社団法人日本投資顧問業協会
 ESG室長 徳田 展子氏

 一般社団法人日本投資顧問業協会ESG室長 徳田展子氏に、ESG投資の動向と投資家から期待される企業の情報開示についてお話を伺いました。

徳田 展子(とくだ ひろこ)

一般社団法人 日本投資顧問業協会
ESG室長

 2018年8月より現職。ESG投資を中心に責任投資全般に従事。
 2018年7月まで東京海上アセットマネジメントにてSRIファンドおよびESG投資を含む責任投資全般を担当。
 環境省「幅広い投資家による低炭素投資促進検討会」、「グリーン投資促進のための情報開示および評価の在り方に関する検討会」、「持続可能性を巡る課題を考慮した投資に関する検討会(ESG検討会)」、「ポジティブインパクトファイナンスTF」、国交省「ESG-TCFD実務者WG」、内閣府「ジェンダー投資に関する調査研究企画委員会」、連合総研「“良い会社“であることの情報開示と労働者の立場からの責任投資原則促進に関する調査研究」、信託協会「企業のESGへの取り組み促進に関する研究会」等の委員を務める。日経アニュアルリポートアウォード二次審査委員(2012年度~2017年度)。2019年より早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター講師。

-はじめに、徳田さんのお仕事についてお聞かせください。
徳田氏:
徳田氏:

 当協会は、日本の投資顧問業の発展を推進する業界団体で、国内のほぼ全ての資産運用会社に会員になっていただいています。私の仕事は、協会会員による自主的な取組を後押しすることで、社会にESG投資1を普及・促進させることです。そのために、様々な方向からアプローチしたいと考えており、会員やその他のステークホルダーとの対話を通じて課題の認識・共有を行い、課題解決に向けた取組を行っています。例えば、運用会社の経営層にお集まりいただき、スチュワードシップ活動2に関するベストプラクティス等を共有する「スチュワードシップ研究会」の開催などはその一つです。また、学生や社会人のESG投資に関するリテラシーの向上に向けた講義や、政策当局が主催する各種会合への参加、内外関係諸団体との連携・情報交換等も重要な仕事です。

1 ESG投資は、従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資のことを指す。

2 「機関投資家が、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解のほか運用戦略に応じたサステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)の考慮に基づく建設的な「目的を持った対話」(エンゲージメント)などを通じて、当該企業の企業価値の向上や持続的成長を促すことにより、「顧客・受益者」(最終受益者を含む。)の中長期的な投資リターンの拡大を図る責任のことを「スチュワードシップ責任」という。「スチュワードシップ活動」とは、スチュワードシップ責任を果たすための機関投資家の活動のことをいう。」(出典:「責任ある機関投資家」の諸原則≪日本版スチュワードシップ・コード≫)

-最近のESG投資の動向では、どんなところに注目されていらっしゃいますか。
徳田氏:
徳田氏:

 最近は「インパクト」に注目が集まってきています3。2015年にGPIF4がPRI5に署名した頃から、ESG投資をやる、やらないではなく、どうやってやるのかという話になってきました。それが今はもう少し前進し、ESG投資が社会にどういう影響を与えているのかという視点に移っています。投資家もESG投資は本当に社会課題の解決につながっているんだろうかということを、徐々に考えるようになってきています。

3 ESG投資のなかで、インパクト投資は、環境や社会へのポジティブな変化を生み出すことをそもそも投資の目的として位置づけているものである。持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて、社会的課題の解決に民間資金の活用が求められている今、インパクト投資は民間資金を動員する有効な方法として注目を集めている。(出典:一般社団法人 社会変革推進財団及び国際金融公社(IFC)ウェブサイト)

4 年金積立金管理運用独立行政法人。厚生年金と国民年金の給付の財源となる年金積立金の管理・運用を行う。

5 Principles for Responsible Investment(責任投資原則)。国連事務総長の呼びかけの下、環境、社会、コーポレートガバナンスの問題と投資慣行との関連性が増大していることを考慮し、機関投資家の国際的なグループにより策定されたもの。投資分析と意思決定のプロセスにESG課題を組み込むことなど、6つの原則から成り、2021年9月末現在、4,300以上の署名機関が参加し、資産総額は121兆米ドル以上となっている。(出典:UNFP FI、国連グローバルコンパクト「責任投資原則 2018」及び“PRI update”(Q4/2021))

-ESG投資を通じた中長期での企業価値向上の観点から、機関投資家が企業の取組の中で今注目しているポイントはどういったところでしょうか。
徳田氏:
徳田氏:

 機関投資家は、ESGへの取組そのものを見るというよりは、その取組が経営戦略とどのように結びついているかというところに注目しています。なかにはESGの取組だけを開示している企業もありますが、それだけではESGへの取組が企業価値とどのように結びついているか分かりません。わが社の目指すべき姿と、そのために必要な取組をストーリーで語っていただくことが重要です。また、その取組だけではなく、取組の効果についても明確に開示していただく必要があると思います。
 また、最近は、とにかく情報開示することばかりが強調されていますが、企業の担当者によっては、情報開示をすること自体が目的になってしまっているケースも多いように思います。開示そのものが目的にならないよう、何のために開示しているのかを意識することが必要です。そのためには、経営トップが、ESGへの取組を経営理念と経営戦略に結び付けて常に社員に語りかけ、腹落ちさせるということが、全ての企業に共通して望まれる取組かと思います。

-投資家の皆様がより統合報告書に注目するようになってきたというところも、経営戦略と取組とのストーリーということがあるのでしょうか。
徳田氏:
徳田氏:

 統合報告書は、詳細なデータを見るというよりも、価値創造のストーリーを把握するために投資家は活用しています。まず、経営トップの意気込みが伝わるトップメッセージは重要視しています。そして、企業が何を目指し、そのためにどのような資源を活用し、どのようなアウトプットによって、社会へインパクトを与えているかのストーリーを把握したいと考えていますので、統合報告書の作成にあたってはそのことを意識していただくとよいと思います。細かいデータ等については、例えば統合報告書にURLを載せて、ホームページに誘導していただくような工夫があるとより理解が深まりますね。

-ここ最近、ESG情報の中でも「S」の分野について注目されるようになってきていると感じています。「女性の活躍推進企業データベース」はいわゆるSの情報源のひとつであると思いますが、投資家の皆様はSの分野における今の日本企業の取組状況をどのように見ているのか、また、Sの分野の中で重要視されている情報はどういった情報でしょうか。
徳田氏:
徳田氏:

 「S」と一言でいってもすごく幅が広いんです。コロナ禍があって、今はその企業の働きやすさや柔軟性がより注目されています。女性活躍に関しては、コロナ禍の前から関心が高まっていましたが、それと絡めて女性の働きやすさがこれまで以上に注目され始めていると思います。
最近ではその範囲がさらに広がり、人権問題にまで拡大しています。世界的にサプライチェーンの人権に注目が集まっていて、今は日本企業も対応を強化する必要があるという話をしている段階ではないかと思います。もちろん、日本企業の中にもサプライチェーンの人権デューデリジェンス6 に取り組んでいて、開示しているところもありますが、その内容をよく読んでみると、まだまだ不十分な印象があります。人権については、投資家も企業もこれからで、踏み込んだ対話ができていません。企業は人権デューデリジェンスをより強化したうえでそれらを開示し、投資家も十分な知識を付けてもっと深い対話ができるようになれば、Sに関する課題も徐々に解決していくのではないでしょうか。

6 企業が事業活動を行う中で、社内だけでなくサプライチェーン(原料調達から製造、物流、販売までの供給網)全体で、強制労働や児童労働、ハラスメントや差別といった人権侵害のリスクを特定して、予防策や軽減策をとること。また、自社の人権に係る方針の策定や、人権に関するリスクの評価結果について、外部に情報開示することも求められている。

-投資家目線では、女性の活躍に関連する情報のうち、どのような情報に注目されているのかについて教えてください。
徳田氏:
徳田氏:

 女性の活躍に関する情報は多岐に渡りますが、中でも女性の取締役比率は重要視しています。取締役における多様性が企業価値向上のうえでは必要不可欠で、女性取締役がいなければ、ダイバーシティが実現できていないと見ています。女性取締役については、社外から招聘して終わりではなく、社内の女性取締役比率も上げてほしいと思います。また、取締役比率だけではなく、雇用管理区分ごとの男女の比率も、その会社のことが良く分かるので合わせて注目しています。
 そして、トップのコミットメントも重要です。どういう戦略で、どういう方向に進もうとしているのか、目指す企業はどんな企業かということは投資家が共有しておきたい情報です。

-女性管理職比率の向上を目標に掲げている企業も多いですが、その中でも、女性取締役比率を重視される点についても、もう少し詳しくお聞かせください。
徳田氏:
徳田氏:

 女性取締役がいるかいないかは、企業の変革に対する意気込みや本気度を見るうえでも重視しています。いくら管理職を増やしたところで、取締役は誰もいませんということですと、本当に女性を活躍させようとしているのか、ダイバーシティを実現させようとしているのかというところで疑問符が付きます。

-企業による女性の活躍情報の開示について、投資家として、更なる開示を求めるのはどのような情報ですか。
徳田氏:
徳田氏:

 企業は投資家等から評価されることを意識した“良い”情報を開示しているという印象を持っています。既に取り組んでいる情報だけではなく、「取組途中でまだ目指すところまではいっていないけれども、こういうことを考えています」という情報についても、過去の推移と一緒に開示していただければ、その企業の方向性を深く理解することができます。

 また、KPI7も、経営戦略とどうつながっているかが理解しやすいので重要視しています。「当社のKPIは何で、その進捗状況はこうです」というところまで開示していただけると、より深い対話に繋がると思います。

 開示する情報の内容については、課題を解決するためにはどんなことが必要で、そのためにどんな情報を開示していくのかということを考えて、今後開示する情報を増やしていただければと思います。例えば、現時点で公表している企業は少ないのですが、男女間の賃金格差の公表は根本的な課題解決に繋がると思います。
 男女間の賃金格差は、男女では職種が違うから賃金格差があって当たり前、と思う人がいるかもしれませんが、そうではなくて、なぜ職種が男女間で違うのかということを考えなければなりません。そこにはアンコンシャスバイアス8があり、それに気付くことが必要だと思っています。そういう根本的な解決に繋がるような情報開示の項目が今後増えていくことを期待しています。

7 Key Performance Indicator(重要業績評価指標)。組織の目標を達成するための重要な業績評価の指標を指す。企業やプロジェクトが目指す目標の達成度合いを測る補助となる定量的な指標で、例えば、職場における女性の活躍を目標に掲げる場合、KPIの一つを女性取締役比率にすることである。

8 無意識の思い込み、無意識の偏見を意味する言葉で、自分自身が気づいていないものの見方や捉え方のゆがみ・偏りをいう。


出典:内閣府「ジェンダー投資に関する調査研究 アンケート調査」
対象:日本版スチュワードシップコードに賛同する国内に拠点を持つ機関投資家等、計234機関(回答数:131件、回答率56%)
実施期間:2020年10月~11月
調査方法:対象者にメールまたは郵送によるアンケート票を送付し回答を求めた(記名式)

図 機関投資家が活用している女性活躍情報
(内閣府「ジェンダー投資に関する調査研究 アンケート調査」より)

-本日は大変示唆に富むお話をいただきありがとうございました。

(インタビュー実施:2021年9月)